『ハリー、見知らぬ友人』などで日本でも知られる鬼才ドミニク・モルが、得意のサスペンスに仕立てあげた本作は、同じ出来事を複数の人物の視点で語り直す、黒澤明の『羅生門』を彷彿とさせる手法で描かれる。しかし、それだけではない。さらにそこから空間や時間を飛び越えたシークエンスが、まるでパズルを解くように、散りばめられた伏線がすべて回収されていく仕掛けが施されている。それは、同じく『羅生門』方式を使ったクエンティン・タランティーノの『ジャッキー・ブラウン』や、デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』のファンも満足させるはずだ。
そして、その背後にあるのは、秘密を抱えた孤独な人々の、求めても報われることのない愛を必死に追い求めようとする姿。この映画はそこまで踏み込んでいるからこそ、単なるジャンル映画を超えた一級の人間ドラマにもなっているのだ。
本作は、フランスの「AlloCiné」で星3.7を獲得し、厳しい評価で知られる「リベラシオン」紙で満点の星5を叩き出している。また、「Rotten Tomatoes」のトマトメーターでは97%の高評価を得ている。カンヌ国際映画祭では、脚本賞と助演女優賞(ロール・カラミー)にノミネートされ、東京国際映画祭で観客賞を受賞し、新人のナディア・テレスキウィッツは、同映画祭で見事最優秀女優賞を獲得している。
フランスの山中にある寒村で、一人の女性が失踪し殺された。
疑われたのは農夫・ジョゼフ。
ジョゼフと不倫する女・アリス。
妻のアリスに隠れてネット恋愛する夫・ミシェル。
そして遠く離れたアフリカで詐欺を行うアルマン。
秘密を抱えた5人の男女がひとつの殺人事件を介して絡まり合っていく。
だが、我々はまだ知らない・・・
この事件がフランスから5000kmも離れた場所から始まり、
たったひとつの「偶然」が連鎖し、悪意なき人間が殺人者になることを。
1962年ドイツ・ビュール出身、フランスの映画監督・脚本家。
『ハリー、見知らぬ友人』(2000)、『レミング』(2005)はカンヌ国際映画祭パルム・ドール候補に。『ハリー、見知らぬ友人』は、2001年セザール賞で最優秀主演男優賞、最優秀監督賞、最優秀編集賞など数々の賞を受賞。
作品 Filmography
1994年: 『Intimité(原題)』
2000年: 『ハリー、見知らぬ友人』
2005年: 『レミング』
2011年: 『マンク 破戒僧』
2013年: 『Tunnel』(原題:The Tunnel)(TV シリーズ)
2016年: 『News From Planet Mars』
(原題:Des nouvelles de la planète Mars)
2018年: 『Eden(原題)』 (TV シリーズ)
2019年: 『悪なき殺人 』(原題:Seules Les Bêtes)
こんなに周到で恐ろしい罠があるだろうか。平然と道を行き交う私たちの足下に、毒矢のスイッチが無数に埋め込まれている。しかもそのスイッチは少しも音を立てず、毒矢は遠く離れた誰かの胸へ放たれる。
「あ、そうだったのか」「え? そういうことなの?」の連続。冒頭の出来事のすべてのシーン、すべての台詞を覚えておこう。
夢見ることの滑稽さと切実さ、愚かで愛おしい人間を、
たった一つの大きな偶然が、いろんな悲劇を生み出してしまう。巧みに紡がれていく超一級品の脚本を堪能できる映画です。見事すぎて、思わずうなる。ミステリなのに、脚本の出来に何度も膝を打ち、最後にはちょっと笑ってしまう。お見事でした。
出会いと別れは、人生の表舞台に過ぎない。
裏側のすべてが見えてしまえば、その恐るべきループを目の当たりにして、我々は正気を保てはしないだろう
あれ、マイナス1で丸く収まった?なんて錯覚しそうなほど、想像が絶妙に ちょっとだけ裏切られ続ける展開の果て「淋しいのはお前だけじゃない」とささやかれた気がする、ってどういう映画?ごめん、これは観ないとわから ないやつ。
緻密なのに自然体な脚本。ちゃんと登場人物がこの世界で苦悩していた。偶然や思い込みだけで片付かない世界がそこにあった
世界は小さな『悪なき殺人』で満ちている。個人の倫理はいつも社会に試されている。格差は国境を越えてwi-fiに流れ込む。欲望はいつも孤独のへその真ん中にある。
『悪なき殺人』は、一度観て作品の面白さに唸り、二度観て初見で把握しきれなかった細かな伏線の張り巡らせ方に感嘆し、三度観て事件の背景にある人間ドラマの深さに心から感嘆し溜息をつく、そんなリピート鑑賞必至の傑作なのです。
複数の男女のねじれた関係をいくつかの異なる視点で描き、愛という名の幻想の向こう側を見せる。「ファーゴ」、「ハリーの災難」に通じる奇妙なユーモアもあり、予期せぬ展開と構成力のうまさに引き込まれる異色スリラー。
男女5人の人生が巧みに絡み合い最終的には惑星直列のように縦軸として物語が繋がる。人との出逢いは偶然だとしても愛し愛されたいと願う気持ちは必然なのだ!
時に、人と人との縁は幸運をもたらすが、この映画の縁がもたらすものは悪運だ。目には見えない縁で人と人とが繋がっているように、大陸と大陸も陸地以外の何かで繋がっている。フランスから遠く離れたコートジボワールとの間にあるものは「予想外なのに現実的」という奇妙で奇妙な縁なのだ。
ドミニク・モル監督は『レミング』や『ハリー、見知らぬ友人』など、人間の底知れなさをスリリングに描く鬼才だが、本作では芸達者な俳優に支えられて、その人間描写の奥深さをいかんなく発揮している。切れ味抜群の練りあげられた脚本に感服すると同時に、「人間は偶然には勝てない」というキャッチコピーがじわじわと効いてくる、じつに怖い物語である。
雪原、忽然と姿を消した女、射殺された犬……。
緻密で濃密かつ知的...
現代文学としても十分に適用するレベルの巧妙な脚本で、偶然の連鎖で絡まりあっていく5人の男女の運命を見事にまとめたドミニク・モルに脱帽だ。
テンポ感や空気感も含めて迷宮の中から抜けられなくなってしまうような魅力を持った映画ならではの映画だ。
小さな羽ばたきが地球に影響を及ぼすバタフライ・エフェクト。モルの映画を飛び交う愛欲・執心・献身・野心・嫉妬などのバタフライたちが事件を引き起こす。かつてないミステリアス心理劇の傑作!
雪山のフランスと太陽のアフリカ、不倫妻、GLに溺れる娘、ネクロフィリアの男、詐取した金を女に貢ぐ男、詐欺師のネカマに貢ぐオヤジ、背徳の愛の亡者が錯綜する淫靡なスパイラル。偶然が、失踪した女の運命を翻弄する衝撃のミステリー。
見事にしてやられました。
思いもよらない展開と結末で、久々に幸せな敗北感を味わうこととなりました。
観客賞も納得です!
シリアスなのにコミカル、小気味よい展開と伏線回収の果て、観客もまた果てる(鑑後感スッキリ)。
映画館の帰り道、「詳しくは言えないんだけどさぁ」と誰かに薦めたくなること請け合い。
なんてスリリングなストーリー展開!偶然があぶり出す現代社会の有様。見事!
巧妙に仕掛けられた伏線と回収、展開が進むにつれその都度、「成る程…そういうことだったのか…えっそうだったの?!」とひたすらに感嘆続き…
動物だけが知っている、動物の眼だけがすべてを見ている、そこに観客の目線が重なり、登場人物たちが知り得なかった“真実”と“全貌”を、動物と観客のみが知るという、世にも奇妙なサスペンス群像劇。
流石、一昨年の東京国際映画祭 観客賞!(因みに女優賞と2冠!)
今年一番“唸る”映画、間違いなし。
愛をもとめる孤独な人々の運命が偶然によって絡み合っていくさまがとても滑稽だけれど、どこか悲しさを帯びた愚かさゆえに自分勝手なキャラクターへの愛おしさも積もってしまう一方通行の愛の話。とくにドゥニ・メノーシェが演じたミシェルの哀れでイノセントな欲望に涙し、彼の未来に幸あれと願ってしまった。ここで黒魔術!と思わぬところでも大興奮でした。
パリの国立高等美術学校出身。これまで映画監督ベルトラン・ブリエ、ヴィルジル・ヴェルニエ、ブリジット・シィらの作品に出演。2016年、初めて主演を果たしたアラン・ギロディ監督の『垂直のまま』は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。ピエール・サルヴァドーリ監督の『トラブル・ウィズ・ユー』(2018)で2019年セザール賞助演男優賞にノミネート。アンヌ・フォンテーヌ監督の『白雪姫~あなたが知らないグリム童話~』(2019)ではシャルル・ベルリング、イザベル・ユペールと共演。メイン・キャラクターを演じたラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』(2019)は2019年カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。同年、ロマン・ポランスキー監督の『J'accuse(原題)』(2019)で第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門銀獅子・審査員大賞受賞。最新作はウェス・アンダーソン監 督 の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 』(2022 年日本公 開 )ほか。
フランス国立高等演劇学校出身。数々の賞を受賞したギヨーム・ブラック監督の『女っ気なし』(2011)から、ブランディーヌ・ルノワール監督の『Zouzou(原題)』(2014)まで幅広い作品に出演。ジュスティーヌ・トリエ監督の『In Bed With Victoria(原題: Victoria)』(2016)、レア・ミシュー監督の『Ava(原題)』(2017)、ギヨーム・セネズ監督、ロマン・デュリス主演の『パパは奮闘中!』(2018)の3本はカンヌ国際映画祭の批評家週間部門で上映される。アラン・ギロディ監督の『垂直のまま』(2016)はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品。2018年、エマニュエル・ムレ監督の『令嬢ジョンキエール -愛と復讐の果てに-』、2019年にはジュリー・ベルトゥチェリ監督の『アンティークの祝祭』でカトリーヌ・ドヌーヴと共演した。最新作はNetflixのドラマシリーズ「エージェント物語」ほか。
『イングロリアス・バスターズ』(2009)の印象的なオープニングシーンに出演して以来、様々な役柄を演じキャリアを積み重ねる。リドリー・スコット監督の『ロビン・フッド』(2010)、スティーヴン・フリアーズ監督の『疑惑のチャンピオン』(2015)、ジョゼ・パヂーリャ監督の『エンテベ空港の7日間』(2018)などのヒット作から、ジュリー・デルピーが監督した『スカイラブ』(2011)、フランソワ・オゾン監督の『危険なプロット』(2012)、レベッカ・ズロトヴスキ監督の『グランド・セントラル』(2013)などのインディペンデント作品まで幅広く演じ、フランスを代表する性格俳優の1人と賞賛されている。出演作はほかにホアキン・フェニックス主演、ガース・デイヴィス監督の『マグダラのマリア』(2018)、ヴァンサン・カッスル主演、ジャン=フランソワ・リシェ監督の『L'Empereur de Paris(原題)』(2018)のほか、2019年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞したフランソワ・オゾン監督の『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(2019)では心を揺さぶる演技を見せた。数々の出演作の中で彼が独特な才能を最も発揮したのはグザヴィエ・ルグラン監督の『ジュリアン』(2017)で、その強烈な演技でセザール賞主演男優賞にノミネートされた。最新作はウェス・アンダーソン監督、ベニチオ・デル・トロ主演の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 』(2022 年日本公開 )
デニス・ベリー監督の勧めでダンサーから役者に転身したナディア・テレスツィエンキーヴィッツは、彼の監督作『Wild(原題:Sauvages)』(2018)で初めて主役に抜擢され、翌年、ロシュディ・ゼム監督の『Persona Non Grata(原題)』(2019)でラファエル・ペルソナ、ニコラ・デュヴォシェルと共演し、幻滅した若い相続人を演じる。最新作はイスラエルで撮影したトマ・ヴァンサン監督、Canal Plusのドラマシリーズ「ポゼッションズ 血と砂の花嫁 」(2020)で、レダ・カテブとダブル主演を果たす。
イタリア・トリノ出身、フランス・ナンテールのアマンディエ演劇学校にてストラスバーグ・メソッドという演技法で芝居を学ぶ。1987年、パトリス・シェロー監督の 『HÔTEL DE FRANCE(原題)』で本格的に映画デビュー。その後、ロランス・フェレイラ・バルボザ監督の『おせっかいな天使』で1994年セザール賞有望若手女優賞を受賞。『NOTES OF LOVE (原題: La parola amore esiste)』(1997)でミモ・カロプレスティ監督と共に台詞を書いたことから脚本に目覚める。初めて監督・脚本を務めた『ラクダと針の穴』(2003)は、トライベッカ映画祭で数々の賞を受賞。2007年カンヌ国際映画祭では監督・脚本・主演を務めた『女優』(2006)がある視点部門審査員賞を受賞、2013年には『イタリアのある城で』がコンペティション部門に選出される。2018年ベネチア国際映画祭で、脚本・監督作としては現状最後の長編作となる『A SUMMER HOUSE (原題: Les Estivants)」を上映。